129 荻野先生最終講義 平成10年11月14日 



体の大きい人にはね、ほれ、こういうかたちになるの。
見たか!?見たか!? えっ! ホントか?
こういうかたちになるんですよ。ヒジでとめる。
かならずアンコというのはまわしを取りにくるんだから、自分の体力で有利にするために。
これ以上差さない、絶対に。ここで、ここで(ヒジで)とめておくの。 おぼえておけよ。こういうかたちになるの。わかる?
できたらこれで勝負しちゃうの。
まくには片一方からすくってまく。そういうのがアンコは一番弱い。 自分の腹に何十キロも抱えているんだから、ついてこれないんだ。 あとは土俵がまるいんだからくるくる回ればいいんだよ。

朝日大学についてだけど、 研究しても稽古しなきゃだめですよ。
あとは決め手を持たなきゃ、やっぱり。おせ―たとおり、ばっーと。
中所!! 中所!! (ハイ)
この前ハンマー投げ(かいなひねり)やってたけど、これじゃ効かないんですよ。
こうじゃないとダメなの。わかる?
竹刀と同じなの、バットと同じ。こんなことして(右手と左手を離して)バット振っても当たらないんだよ。
こう持たなきゃだめなんだ。(右手と左手をくっつけて)
こう、もっと流れた方へぐっーと。
そういうふうに教せーてるんだから。決め手を持たなきゃだめなの。
そういう稽古もやらなきゃ。三部ではもう勝つくらいの基本的なことはできてるんだから。
あとは二部に勝つ相撲。そのためには決め手を持たなきゃ。

中央大!、前にも言ったでしょう、先鋒から三人、中堅まで同じ技で勝てるって言ったことあったでしょう。 たまたまだろ、三人とも中央大学、突き落としじゃないか!! 大きなやつには突き落としが一番いいの。

去年、今年、来年と、私は東大に勝負かけてるの。
来年のメンバーも、もう頭に入ってる。入ってるけれど、これは監督さんの仕事だから、口出しはしません。 勝てるんだからやってよ。
おっ!おへそが出てきたな。たのむ、そうやって大きな肉をつけてください。 これだったら相手がまわし取りにきてもピッシっと切れるよ。

二部の真ん中まで行かなきゃだめですよ。二部の真ん中でも勝てる!! そういうやり方してるんだから。
僕は他の学校行ったら、こんなに微に入り細に入りして教せーませんよ。 稽古しなさい、体で覚えなさい。としか言わないよ。
あんた達は三日間しか稽古してないんだから、一週間に。 理論と稽古を平行して僕言ってるんです。そうしないと間に合わないから。
お相撲さんたちは十年して関取になればいいけど、あんたたちは四年しかないんです。 四年で完成に近づけなければいけない。それにはそういう教せーかたしてるんですから、一生懸命反応してください。 栃錦が私と一杯飲んでるとき言ってたよ。
四つになって技を出すときに、相手がハーっと息を吐いたとき技をしたら、全部かかったそうだ。 グワッーと相手が押すけど、一番最後はフッと気が抜ける。息が、そのとき技を仕掛けられると、頑張る力がないんだ。 僕は栃錦に教えてもらったんだ。そうやって大きいのに技を仕掛ければ、先生勝ちますよって。
あの人は四つ相撲だけど、息をしてるとき、相手が息を吐いたとき、バッーと技をかけるとかかるそうです。 息を吸ったとき技をかけると、持ってかれるよ。 僕は四つ相撲じゃないけど人に聞いたりして間違いないと思っているから。

あの人は、どんなに暑くても、障子しめさせて、浴衣を着て、こうやって寝たよ。(横を向いて体を丸めて) 僕と一緒に寝たときもそうだったよ。私なんかあお向けでアーっと寝たよ。
あくる日、横綱、なんでそんなにして寝るんですかって聞いたら、栃木山って人がそうやって寝たそうだよ。 体が小さいもんだから、関節が人の倍くらいやらないとついていかれないから、いつでも関節を柔らかくするために、こうやって寝たそうだよ。 それくらい気をつけて寝てるんです。それは栃錦に聞いたら、栃木山っていうお師匠さんにならったの。
こうやって(あおむけに)寝るのもいいけど、試合の前には、試合の一週間から十日前には、そのくらいの神経使わなきゃだめだよ。

あの、相撲の知恵をもっと身につけてよ。あんたら頭がいいんだから、知識があるんだから。あとは相撲の知恵。 いい先輩がいて、みんなこれだけ協力してるから、こんだけ強くなってんだから。
そのかわり栃錦は引退したとき、あけろー!!って言って、開けさせて、ぐわーって寝たそうだよ。 それまではこうやって寝るようにしたんだよ。それまでは寝られなかったけど、寝る努力をしたら寝られるようになった。

武蔵が決闘する前に松の木の下で昼寝をしたそうだよ。そして、吉岡道場を道場破りをして吉岡道場のみんなをやっつけたんだ。 ちょっとできないようだけど少し修行すればできるんだよ。
そういうことは詰らんことじゃないんだよ。それは知恵なんだよ。本を読んでいるとそういうものを授かるんだよ。 そういうものから覚えてもらいたい。
卒業したら、うちを相手にしてくれ。卒業するまでは土俵を相手にしてくれ。

あのー、思いついたこと、こんな言葉知ってるかな? あーっ!! くーっ!!(黒板に書いている、外蓮身) こんなのしらんだろうな。キャプテン!キャプテン!、なんて読む? (けれんみですか?) おーっ、さすが学あるな。私は君たちがまじめ過ぎておもしろくないのは、いたずらをしないし。悪いことはダメだよ。 でも、外蓮味なんてのはいたずらですよ。こういうこと日本の言葉にはあるんだから、外蓮味という言葉が、字があるんだから、そういうふうにやってください。

中央大では全部突き落とし、三人とも。三人までは効きますよって奥田には言ったことがある。キャプテンにも言ったことがあるんじゃないか? 中堅まではきくよって、だからそういうのやってちょうだい。

過ぎたるは及ばざるがごとし。あんまり真面目だとおもしろくない。
一杯飲んだらいたずらをしてみたりね、人に迷惑をかけるいたずらはダメだよ。 でも、中所みたいにさ、一杯飲んだらおもしろいこと言って、英語の発音正しいのかなんだか知らないけど、言って人を笑わしてみたりさ、そういうのなきゃ、やっぱり、たのむよ。

あとでまたお話します。稽古の前にごめんなさい。気がついたこと。新田先生もおられるし、監督さんもおるけど、最終講義だ。あーっ。あとは自分たちで勉強してください。
あとは、あのー、チャンコがあるんだけど、ちょっとやる気がないんだ、今は。キャプテンのことが頭にあるから、監督のこととね。 教せーたことやらないから。そういうのが分からん。そういうのは相撲の自然の中で覚えていかなければならないもんなんだけど。
選手が引くなって言ってるのに引いて、朝日大学と当たって、みんなになんて言ったの?、引いてから。
えーっと、朝日大学と他はどこですか?
(関学、中京、東医です)
僕らのときは関学は強かったけどね―、あそこは立派な横綱もおるし。
関学が決勝トーナメントに入っていったんでしょ、やっぱり実力ですよ、あの学生真面目だもん。 東大生と同じで、あそこもほとんど煙草飲まないね。本当いい学生だ。そういうのも自然と身についたんだろうね。

朝日大学ってのはそんなに体大きいの? 高くて重いの? いろいろ? そういうのも稽古の仕方があるんだ。 そこまで僕は教せーてないけど、だけど今ちょっと形を教せーた。わかったな。
差したら勝てないよ、差したらまわしも切れないよ。少し余裕がないと、相撲は。
空手とか剣道の人に聞いても相撲ほど難しいものはないんだから。
大谷なんかも、投げるときかならず体を離れて投げてるよな。こうやってうってないだろ、離れてるだろ。 離してないとできないんだよ。剣道なんかも空手なんかもくっついたら技が出ないでしょ。離れるから技が効くんだよ。

あんな小さな競技場で、世界にもないもんね、こんなに小さい競技場、それで体の大きい方が有利なんて言っているけど、しかし大きい方が勝つという答えもないし、負けるという答えもない。 「相撲は体が密着しても勝ったり負けたりするのは難しいでしょうね」って空手のギネスブックにのった大石という人が私に言った。 世界チャンピオン三回とったのが言ってたよ。

打ち込んでください、相撲に。四年間だよ、四年間のうちに完成に近づけなければならない。
四年なんだよ、六年じゃないんだよ、木村君、四年!!
質問があったらまたしてください、また聞きますんで。
高橋!、競馬に打ち込むのもいいけど相撲に打ち込め!! 馬乗りたかったらうちへ来いっ! うちの馬にのってろ。えっ!。その方がもっと爽快だよ、ギャンブルよりは。
がんばってやってくれ。頭いいんだからできる!。やってください。
あとからまた質問なり、気がついたことは言います。一応これで終わる。
(ありがとうございました)
はい、どうぞ稽古して。

この6日後に荻野先生はお亡くなりになった。
享年75歳。











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